江國香織『抱擁、あるいはライスには塩を』のあらすじと感想を紹介!

本紹介

『抱擁、あるいはライスには塩を』はどんな小説?

作者:江國香織
出版社:集英社
刊行日:2014年1月25日
ページ数:346ページ(上)、333ページ(下)

世間一般とは隔てられた、風変わりな一族の三世代百年にわたる物語

三世代が親密に暮す柳島家。美しく幸福な家族に見える彼らにはしかし、果敢に「世間」に挑んで敗北してきた歴史があった。母の菊乃には婚約者がいながら家出し、妊娠して実家へ戻った過去が。叔母の百合には嫁ぎ先で病気になり、離縁した経験がある。そして、健やかに成長する子供たちにもまた、変化がおとずれ___。家族それぞれに流れる時間を細やかに豊かに描いた、三世代百年にわたる愛の物語。

集英社文庫裏表紙より引用

本作は「柳島家」という一族の行く末を、祖父母から孫までの三世代にわたって描いた作品です。

全部で23章から構成され、章ごとに時系列と語り手が変わっていきます。そのため、まるで章から章へ時空を超えたような感覚を味わうことができます。

あらすじ

柳島家の「異質さ」が浮き彫りになる印象的な導入

本作は、子供たちを小学校に通わせることにするという家族会議の場面から始まります。

なんと、柳島家では子供たちが学校に通う習慣がありませんでした。母も叔母も叔父も大学以外の学校には行かずに大人になっているのです。

家族会議の末に、柳島家の子供たちは小学校に通うことになりますが、三か月もたたずに退学します。

家庭内では「当たり前」のこと。しかしそれが世間では「当たり前」ではないという事実が、子供たちに突き付けられていったのです。

少しずつ明かされていく柳島家の過去、歴史、秘密

物語が進むにつれて、家族の過去が明かされていきます

母には家出をした末に妊娠して実家へ戻った過去が、叔母には嫁ぎ先で病気になった過去が、父には義父の秘書と愛人関係になった過去があったのです。

三世代を経て、柳島家に訪れる変化

冒頭では祖父母から孫まで一家団結して生活をしていましたが、孫の代にいたって柳島家にも変化が訪れていきます。

世間を経験することで家庭の異質さに気づき変化する者、適応できずに戻ってくる者に分かれていくのです。

一人、また一人と、それぞれの道を歩み始め、大家族がゆっくりと解体されていくのです。

とてもにぎやかだった食卓は最後にはたった三人となってしまいます。

『抱擁、あるいはライスには塩を』の見どころ

「柳島家」と「世間」のコントラスト

家庭内だけ見れば、とても裕福で教養のある柳島家。

しかし、冒頭の学校生活の場面では、柳島家の子供たちが「異質なもの」「少数派」として扱われ、追いやられていく様子が顕著に描かれています

世間との関わりも持った瞬間、いかにこの一族が現実離れしているのかが浮き彫りとなり、世間と柳島家のコントラストが非常に明確に示されていきます。

本作ではこのコントラストを軸に物語が展開されていくため、まったく現実的でないのに、なぜかしっかりと柳島家の存在感を味わうことができるでしょう。

「抱擁」「ライスには塩を」に隠された柳島家の信条

「抱擁」を通して育まれている絆

ストーリー内にて、5歳の娘が「抱擁」という言葉を当たり前のように使っていることに驚かされます。

世間の5歳児だと「はぐ」「ぎゅー」という言葉を使うことが多いかと思います。

柳島家の子どもたちは「抱擁」という言葉の意味をしっかりと理解し、大切に使用しているのです。

このことから、いかに家庭内で「抱擁」を大切にしているのかがうかがえます。

「ライスには塩を」は自由を表す言葉

「ライスには塩を」という言葉は、母・叔母・叔父の三人のみに通じる言い回しです。

お行儀が悪いし塩分の摂り過ぎになるからと子どものころにはさせてもらえなかったのだけれど、大人になってからはお皿に盛られたご飯に塩を振って好き勝手に食べることができる。

つまり、「大人になってよかった、自由万歳」という意味が込められているのです。

母、叔母、叔父は三人それぞれ異なる人生を歩むことになるのですが、「ライスには塩を」という言葉を通じることで、三人の絆を感じることができます。

「抱擁、あるいはライスには塩を」は「家族との絆、あるいは自由」の意味

このように、ストーリーをふまえてタイトルを解釈すると、タイトルには「家族との絆」と「自由」の意味が込められているのです。

『抱擁、あるいはライスには塩を』まとめ

家族との関係、世間との葛藤に悩んでいる人におすすめ

タイトルに「あるいは」という接続詞が含まれているように、「家族との絆」か「自由」どちらをとってもよいということ。

つまり、「世間には邪魔されない家族の中だけの秩序」と「自分の意思で決定していくこと」は自分の好みのバランスで生きてもよいのだと教えてくれます。

家ではこれが普通だったのに、世間では普通ではなかった・・・という経験は誰にでもあると思います。

そんなとき、家での普通を貫くことも良し、世間に合わせてしまっても良しということです。

どんな家族も月日が経てば変化していくもの。

それぞれが心地よい居場所を見つけたとしても家族への愛は変わらない。読了後はそんな気持ちになれることでしょう。

ぜひ、『抱擁、あるいはライスには塩を』を読んでみてくださいね!

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