小川洋子『ことり』のあらすじ(※ネタバレあり)と魅力を紹介!

本紹介

『ことり』とは

『ことり』は2016年に朝日新聞出版社より刊行された小説です。

平成24年度芸術選奨文部科学大臣賞(文学部門)を受賞しており、注目された作品ですね。

著者である小川洋子さんは1991年に「妊娠カレンダー」で芥川賞を受賞、2004年には「博士の愛した数式」で本屋大賞を受賞していることで有名な作家です。

ゆう
ゆう

今回は小川ワールド全開な「ことり」のあらすじと魅力をお伝えします!

あらすじ:ポーポー語を話す「お兄さん」とその弟「小鳥の小父さん」の一生を描いた物語

人間の言葉は話せないけれど、小鳥のさえずりを理解する兄と、兄の言葉を唯一わかる弟。二人は支えあってひっそりと生きていく。やがて兄は亡くなり、弟は「小鳥の小父さん」と人々に呼ばれて……。慎み深い兄弟の一生を描く、優しく切ない、著者の会心作。

朝日文庫裏表紙より引用

本作は、ポーポー語という小鳥の言葉を話す「お兄さん」とその弟「小鳥の小父さん」の一生を描いた物語です。

兄の言葉を理解できるのは小父さんだけであり、お兄さんは小父さんを除く一切の人たちと言葉を通してのコミュニケーションをとることができません。

そんなお兄さんの最大の理解者である小父さんの視点で、物語は進んでいきます。

両親が亡くなってからお兄さんが亡くなるまで、兄と弟の二人だけの生活は23年間続きました。

そんな二人の生活は毎日決まりきったことの繰り返し。

昨日と同じ一日を過ごすこと、これが小父さんにとって最も大事な留意点だった。同じ時間の起床と出勤、同じメニューの昼食、同じラジオのスイッチ、同じ「おやすみ」の言葉。こうしたことこそがお兄さんを安心させると、小父さんはよく分かっていた。

朝日文庫99ページより引用

小父さんにとってお兄さんは、ほんの少しの変化で傷ついてしまう小鳥のような、繊細な生き物だったのです。

お兄さんの生活に変化をもたらさないよう、大切に、細やかに生きていく。そんなお兄さんと小父さんの生涯が描かれた作品です。

『ことり』の魅力

お兄さんと小父さんの関係性から感じる「日々のちょっとした幸せ」の大切さ

本作の魅力はなんといっても、「お兄さんと小父さんの二人だけの世界が守られていること」です。

お兄さんのポーポー語を理解できるのはこの世で小父さんだけ。

お兄さんと小父さんの間には誰一人として入る余地がなく、兄と弟のみで過不足のない完結した世界を作り上げています。

決まりきった生活をおくる。毎日のルーティンの中で幸せを感じる。ゆっくりと二人のペースで生きていく。

それが二人にとっての当たり前の生き方であったのでしょう。

しかし、二人の生活を客観的に見てみると、どこか歪で、社会に溶け込めていないような印象を受けます。

お兄さんは生涯一度も仕事に就かず、ひっそりと留守番をして小父さんの帰りを待つ生活をしていました。

それは現代社会に重ねて言えば、お兄さんは社会に適合することが困難な人ではないでしょうか。

小父さんもまた、そんな兄との生活に不自由を感じず、社会との接点は最小限にとどめて生きています。

小父さんもどこか不器用な人であるのです。

社会的に見れば、兄と弟の関係性は周囲から孤立した寂しいもの。

ですが、おそらく彼らは自分たちの生き方が歪であると意識したことはなく、誰にも邪魔されない二人の世界の中で、幸せを見つけて生きていたのですね。

社会の片隅で生きているからこそ、気づくことができる、日々の生活の中でのちょっとした幸せ。

ゆう
ゆう

二人の関係性を通して日々のちょっとした幸せの大切さを知ることができるのは、本作の魅力の一つです。

小父さんとお兄さんのつながりの象徴である「ポーポー語」のかけがえのなさ

物語の中では、小父さんの「普通の人間」としての側面も描かれています。

司書や園長先生といった様々な人とかかわること、ちょっとした事件に巻きこまれることを経験する中で、私たちが感じるようなごくありふれた心の揺れ方を小父さんも経験していきます。

嫌なことも、ちょっと胸が高鳴る瞬間も、いつも外側からやってくる。

小父さんは翻弄されつつも、いずれ落ち着き、再び自分の世界に戻ってくる。そんな波をなんども繰り返しながら、外界との接点もいつか失っていきます。

耳を澄ませているとお兄さんの声が聞こえてくるような気がした。その声が頭の痛みをそっと包み込んでくれた。小鳥のさえずりがそばにある限り、他の余計な言葉を何一つ聞かなくても済んだ。ポーポー語だけが寄り添ってくれていた。

朝日文庫303ページより引用

そして、小父さんが晩年、最期に手にしたのは兄とのつながりでした。

最後まで小父さんに寄り添ってくれていたのはポーポー語だったのですね。

ゆう
ゆう

小父さんとお兄さんのつながりの象徴である「ポーポー語」。「ポーポー語」を最期まで大事にしていたのは、二人だけのかけがえのない世界を守り抜いて生きてきた証ではないかと思います。

全体の感想:『ことり』は「社会の片隅でひっそりと生きている人々の存在をそっと肯定してくれる」物語である

以上、『ことり』のあらすじと魅力をお届けしてきましたが、いかがだったでしょうか?

鳥籠のように狭く限られた世界で生きるお兄さんと小父さんは、どこか寂しく、可哀想に見えるかもしれません。

鳥籠は小鳥を閉じ込めるための籠ではありません。小鳥に相応しい小さな自由を与えるための籠です。

朝日文庫146ページより引用

しかし、きっと彼らにとって鳥籠の中は決して狭くはない。閉じ込められているなんて思っていない。

二人だけの完結している世界の中で小さな自由と幸せを得て生きていくことができる。

そんな彼らの生き方は、社会の片隅でひっそりと生きている人々の存在を、そっと肯定してくれるのではないでしょうか。

ゆう
ゆう

ぜひ、『ことり』を読んで、お兄さんと小父さんの世界に触れてみてくださいね!

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